研究テーマ | RESEARCH

研究テーマについて

 クラスター物質サブナノ粒子に代表される、量子サイズ効果を示すほどに小さな「量子サイズ物質」は、従来の物質には見られない特徴的な性質を持つことが予測されています。本研究室では、実験科学と理論科学を融合させることで、固体と分子の境界に位置する新しい物質群の開拓を目指しています。有機化学・無機化学・物理化学・錯体化学・高分子化学・超分子化学計算機化学などのインプットの領域から、光化学・触媒化学・理論化学・量子化学などのアウトプットの領域まで、様々な化学分野の知見を活かして研究を展開しています。

★ 実験科学からの量子サイズ物質デザイン  

 これまで量子サイズ物質の精密合成は技術的に困難とされていました。当研究室では、高分子カプセル内部のナノサイズの空間を利用することで、量子サイズ物質の原子数・元素組成の精密制御を行う技術の確立を目指します。この技術では主に、錯体化学と高分子化学を融合させた有機-無機ハイブリッド材料をベースとして、ホストゲスト相互作用を介した原子精度の化学反応を利用するアプローチを採用しています。また、この手法を応用し、量子サイズ物質に特有の電子的性質や、高活性触媒となりうる特殊な反応性など、物理的・化学的な特性の発見にも成功しています。 

精密鋳型合成法の開発

 わずか数個から数十個の原子から成る量子サイズ物質の中でも、複数の元素を含む多元合金クラスター」はユニークな性質を持つことが予測される一方、最も合成が困難とされている物質群の一つでもあります。独自の手法「鋳型合成法」は、高分子カプセル内の反応場を利用して原子レベルの精度でクラスター合成を行う手法で、最大6種類の金属元素が混合した多元合金クラスターの世界初の合成を達成しています。現在は、このような物質群をさらに精密に合成する手法や、より安価に合成する手法の開発を目指しています。

T. Tsukamoto et al. Nature Commun. (2018)T. Tsukamoto et al. Acc. Chem. Res. (2021)T. Tsukamoto et al. Angew. Chem. Int. Ed. (2022) etc...

物性・機能の開拓

 実際に合成した微粒子について、電子状態・化学状態などの物性解明や、光特性・電気特性・磁気特性・触媒特性などの機能解明を行い、量子サイズ物質に固有の革新的物理的特性特異的化学的反応性の発見を目指しています。これまで、特定の組成比のインジウム-スズ合金酸化物クラスターに発現する特異的な酸化状態を利用した発光機能の創出や、金-銀-銅合金クラスターの炭化水素酸化反応における高活性触媒機能の発見に成功しています


T. Tsukamoto et al. J. Am. Chem. Soc. (2020)T. Tsukamoto et al. Angew. Chem. Int. Ed. (2020)M. Huda et al. Angew. Chem. Int. Ed. (2019)

理論科学からの量子サイズ物質デザイン ★ 

 これまで量子サイズ物質の分子設計を精密に行う手法は確立されていませんでした。当研究室では、計算機化学と群論を組み合わせることで、シンプルな構造予測・設計を可能とする新しい理論の開発を目指しています。この独自の理論を用いて、ナノ物質の新しい分子設計指針や、既存物質の延長上にい性質を持つ化学物質など、量子サイズ物質に特有の幾何学や数理科学に関わる新奇な特性の発見に成功しています。

高次周期表の理論提唱

 高次周期表(ナノ物質周期表・超周期表)」は、従来の元素と同じよう量子サイズ物質の分類を可能とする多次元の周期表で、独自の理論「対称適合軌道モデル」を基に構築されています。このモデルは、従来モデルでは近似的に球体として扱われてきたクラスターの幾何学的対称性を考慮することで、クラスターの構造や電子状態のより正確な推定を可能にしています。この周期表は、様々な分野で研究されてきた多様な既知物質を一つの表の中に統合できる他、未知の物質の探索の指針とすることもできる、分子の物理的形状に基づく新しい分子設計理論す。本研究は、京都大学の春田直毅先生との共同研究による成果です。

T. Tsukamoto et al. Nature Commun. (2019)T. Tsukamoto et al. Nature Rev. Chem. (2021)

超縮退物質の理論的発見

 超縮退物質」は、幾何学的には四面体であるにも関わらず球体をも超える高い対称性を持つクラスターで、異常に縮退した電子状態を有する初めての化学物質です。この現象は、幾何学的対称性とは異なる、目には見えない高度な数学的対称性「力学的対称性」に由来しており、その起源は分子構造内原子間相互作用が内在する特殊な数列にあると考えられています。この理論に基づいて、既存の化学の枠組みを超えた新しい化学物質について研究しています。本研究は、京都大学の春田直毅先生との共同研究による成果です。

T. Tsukamoto et al. Nature Commun. (2018)T. Tsukamoto et al. Nature Rev. Chem. (2021)

その他の研究 

 その他にも、光化学・錯体化学・超分子化学・触媒化学分野を中心に様々な機能性物質の開拓を行っています。有機分子やクラスターのような無機粒子を基盤とする分子性の材料は、固体材料と比較して材料設計のハードルが依然として高くなっています。これまでに、精密に分子設計を施した有機-無機ハイブリッド材料を用いる独自のアプローチとして、分子内/分子間の自己組織化を利用した分子性光機能材料の高機能化および多機能化に取り組んでいます。

多角的分子設計による光活性錯体分子の多機能化

 ルミノクロミズムは、周辺環境の変化に応答して物質の発光色が変化する光機能で、一般的なクロミック色素は単一のクロミズム現象を狙って設計されます。我々2つの発色・発光の原理を融合させた精密な分子設計により、一分子で多様なクロミズムを示す「超多機能ルミノクロミック色素」の開発に成功しました。この色素は、高感度なソルバトクロミズム(溶媒)、サーモクロミズム(温度)、ハロクロミズム(酸塩基)、イオノクロミズム(イオン)、ベイポクロミズム(蒸気)、メカノクロミズム(機械刺激)、白色発光などの現象を示し、クロミズムの世界記録を達成しています。さらに、オルガノゲルやナノシート薄膜を利用することで、この光機能を分子固体デバイスへ応用することにも成功しています。本研究は、東京理科大学の西原寛先生、東北大学の坂本良太先生との共同研究による成果です。

T. Tsukamoto et al. J. Am. Chem. Soc. (2017)T. Tsukamoto et al. Chem. Commun. (2017)T. Tsukamoto et al. Chem. Commun. (2017)

精密固定化による光活性分子の高機能化

 我々は、カチオン性分子をアニオン性ナノシート上に精密に固定化することで、分子を高密度・無会合状態で配列させる技術を確立しています。特に、静電相互作用と疎水性相互作用に由来する2つの分子固定化機構能動的に変調することで、色素分子の発光特性の増幅や光触媒活性の制御に成功しています。さらに、光捕集色素と光触媒色素の共固定化により、光エネルギー移動システムと光反応システムが組み合わさった「人工光合成モデル」の構築に初めて成功しています。本研究は、東京都立大学の高木慎介先生、嶋田哲也先生との共同研究による成果です。

T. Tsukamoto et al. ACS Omega (2018)T. Tsukamoto et al. ACS Appl. Mater. Interfaces (2016)T. Tsukamoto et al. Langmuir (2016)T. Tsukamoto et al. Bull. Chem. Soc. Jpn. (2015)T. Tsukamoto et al. RSC Adv. (2015)T. Tsukamoto et al. J. Phys. Chem. A (2013)T. Tsukamoto et al. J. Phys. Chem. C (2013) etc...